犯してはいけない吉原禁断のルール、掟を破って惹かれ合う男と女には・・・嫌われる客は今も昔も同じ
はじめての吉原ガイドブック
■遊女に嫌われる客、喜ばれる客
では、どんな客が遊女に嫌われたのだろうか。
参勤交代で江戸にやってきた諸藩の勤番武士は、陰で「浅黄裏(あさぎうら)」と馬鹿にされたという。これを、「田舎者なので馬鹿にされた」と解釈している人が少なくないが、必ずしも正しくない。むしろ、気取りがなく純朴な人柄で、好まれた勤番武士もいた。
勤番武士が嫌われたのは「しつこかった」からである。彼らは全般にひまだったが、金銭的な余裕もない。そのため、吉原に来たときは、「金を払ったのだから、何度もしなきゃ損だ」とばかり、しつこかったのである。しかも、武士の身分を笠に着て遊女に威張った。
遊女が勤番武士を嫌悪したのは当然ではあるまいか。

半可通。『出讒題無智哉論』東里山人著/文政8年(1825)刊、国会図書館蔵
「半可通(はんかつう)」の男も遊女から軽蔑された。
半可通とは、さも何でも心得ているかのように物知りをひけらかすが、人から聞いたことの受け売りで、底が浅い男である。しかも、「俺は江戸っ子だ」と自慢するわりに、けちだった。遊女の身の上の多くは、貧農の娘が身売りをした結果である。そんな彼女たちには、俺は江戸っ子だという自慢は神経を逆なでされるかのようだったであろう。
【図3】で、半可通の客の部屋から遊女が出て行くが、その目にさげすみの色がある。
さらに、大陰茎の男も遊女は敬遠した。一般に、男は巨根であれば女は喜ぶと思い込んでいる。しかし、遊女は仕事で情交をするのだ。巨根の客は迷惑でしかなかった。
春本『三十六歌仙』(一筆斎文調、安永末頃)で、客の巨根を知って、遊女がこう嘆く。
「命が惜しけりゃこそ。つらい勤めをばこそすれ、あれでされて、どうなるものだ」
遊女が巨根をどう感じていたかがわかろう。
では、どんな男を遊女は歓迎したのだろうか。『ソープランドでボーイをしていました』(玉井次郎著、彩図社、2014年)に、その答えがある。
吉原のソープランドで、いわゆる黒服を経験した著者は、ソープ嬢が歓迎する客を、
「一番喜ばれるのは短小で早漏で優しい人だ」
と、断言している。
ただし、ソープ嬢が歓迎したからと言って、恋愛感情ではない。要するに、ソープ嬢として、短小で早漏なら仕事が楽だったからだ。優しい人なら、うるさいことも言わない。
遊女の場合も事情はまったく同じだったと言えよう。